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(1)
Journalでは私たちが焦点を当てている創造性について触れていきます。ある種の短編集のように、Nomadicのメンバーそれぞれの思いや気づきを、長い文章はもちろん、時には写真のみ言葉の手前で残していきます。
創造性の分類学 Part.1
Shohei Kasamatsu
Fig.1
12,06,2024
始めに、このJournalを始めるに至ったテーマに触れたいと思います。
それは私たちの創造性について、あらためて解像度を高めたいということです。その手法として、生物の分類学のようなプロセスで創造性への理解も深めることを考えています。
分類学とは、観測できる特性をもとに体系的、階層的に生物を整理・分類していくことで、その多様性や進化の過程の理解を深める学問です。こうした分類の歴史によって、食用可能な生物は何か、薬になる植物は何かを人類は明らかにしていきました。私たちの生活を形作る創造性に対しても、そうした見方で理解を深めていきたいのです。
まずは、大きな分類として「有性生殖と無性生殖」をメタファーに考察します。
この地球上の生物が次世代を残していくための基本的な方法として、有性生殖と無性生殖の二つに分類することができます。無性生殖はパートナーを必要とせず単独での繁殖が可能なため、特定の環境下においては有性生殖の生物よりも短期間でより早く効率的に数を増やし、繁栄することが可能です。同一の遺伝情報をコピーし続けるため、環境との関係性が変わらなければその繁栄は維持されます。裏を返せば、環境が急変してしまった場合、それに適応できなければ生存率は著しく低下していまいます。
一方で、有性生殖はパートナーとの遺伝子の掛け合わせにより子孫に多様性が生まれます。新しい形質や特性が出現しやすく、変化の激しい環境だとしても生存率を高めることができます。長期的な見方をすればこちらの方が進化において有利と言われています。
私にはどうしてもこの生物の構造が、人類の創造性と通ずるものがあるように思えてならないのです。
「野生の思考」の著者であるレヴィ・ストロースは、創造性をエンジニアリングとブリコラージュという2つの側面に分類しています。
エンジニアリングは、明確な目的が始めに設定され、それを達成するための手段が計画されます。その手段としての組織やツールを体系的に分け、専門化することで再現性を高めながら最大化に向かいます。まさに商業的な”プロダクトデザイン”とは、市場環境、顧客ターゲットを設定し、製品の完成形を決め、設計図を用意し、量産・流通の体系を構築します。その枠組みのなかで最大化に向かうということにおいて、なんとも無性生殖的ではないでしょうか。
ブリコラージュは即興的で柔軟なアプローチがされます。「器用仕事」や「寄せ集め仕事」と訳されることもあり、手元にある材料を使い状況に応じた創造性が発揮されます。 それは時に、あるオブジェクトを本来定められた使い方とは異なる新しい用法を見出すことにつながります。
fig.1は、戸越銀座周辺で通りがかった理容院のドアの写真です。故障し、自動では動かなくなったドアという問題に対して、ガラス運搬用のバキュームリフターを設置の容易な取っ手として利用する見事な方法で解決しています。テープで手動であることを促す矢印を設けながらも「Auto」の表示を隠さず残しているところも遊びがあってとても愛らしい固有性のある魅力を持っています。
このように、ブラコラージュは物事の要素を分解し結びなおすことで再構成する創造です。それは大きく見ると、既存の枠組みの外に立ち、メタな視点で根本から枠組みや構造を捉え直す力とも言えます。 異なる存在だったもの同士が結びつき、また新たな形で生きのびていく様は有性生殖的であり、環境や社会の変化に対応する力を感じます。
決してどちらかが間違った創造性であるということではありません。どちらも間違いなく必要不可欠な創造性です。しかし、今の社会にはそこに偏りが合うように感じるのです。
次回はその偏りがなぜ起きているのか、そして私たちは何をすべきなのかに触れたいと思います。